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長崎家庭裁判所 昭和61年(家)786号 審判 1986年7月31日

申立人 久米田栄助

未成年者 朝田幸二

主文

未成年者の親権者を本籍長崎県下県郡○○町大字○○××××番地亡朝田節子から申立人に変更する。

理由

1  申立人本人の審問の結果、家庭裁判所調査官の調査の結果に、本件記録を併せ考えると、次の事実が認められる。即ち、

(1)  申立人は、対馬の○○町で生れ、大工見習の後、独立し、爾来、自営していたが、昭和36年6月26日、同じ部落の亡朝田節子(以下単に「節子」という。)と婚姻し、同36年6月15日長男良美を、同38年2月28日二男勇を、同40年1月18日三男吉彦を、同45年6月6日四男未成年者をそれぞれもうけた。その後、夫婦は、長崎市内に転居したが、節子に不貞行為があつたので、申立人は、家を出、節子は、4人の子供をつれて対馬に帰つた。そして、申立人と節子は、同48年2月2日長崎家庭裁判所厳原支部で、4人の前記子らの各親権者をいずれも節子とそれぞれ定めて、調停離婚した。

(2)  その後、節子は、4子を養育監護し、共にくらしており、申立人は月約5万円ずつ子らの養育費を送つていたが、節子が、昭和50年11月4日に死亡したので、右子らは、節子の実家の父母に引き取られた。

(3)  申立人は、節子と離婚後、現在の妻清子と同48年10月15日に再婚した。

そして、申立人夫婦は、節子の父が死亡し、子らも長崎で実父と一緒にくらしたいと望んだので、右節子の父の葬儀が終わるのを待つて、同54年7月(未成年者は9歳で小学校3年生の時)4人の子らを引き取つた。

(4)  申立人は、現在、○○クレーンを経営し、月収30万円位(内年50~60万円を申立人の母に送金している。)で、後妻との間には子供もなく、真面目な一家の主人として生活しており、未成年者は、申立人夫婦のもとで、何不自由なく、申立人夫婦を実父母と思つて幸に生活している。

(5)  未成年者は、現在、申立人のもとで、県立○○高校1年に在学して、元気に通学しており,心身ともに健全に成長している。

(6)  後妻の清子も、親権の変更に異存はなく、むしろそれを望んでおり、未成年者も清子には特に親しんでいて、実母と思つている様子が見られる。

以上の認定事実によると、未成年者の親権者を節子から申立人に変更することが、未成年者の福祉に合致するものといわねばならない。

ところで、家事審判規則72条で準用する同54条によると、子が満15歳以上であるときは、家庭裁判所は、親権変更の審判をする前に、その子の陳述を聴かなければならない旨規定している。そして、本件記録添付の戸籍謄本によると、未成年者の生年月日は、昭和45年6月6日であつて、15歳以上であることは明らかである。

しかし、本件においては、その手続の中で、未成年者の陳述を聴いていないので、この点について説示する。

前記規則72条の法意とするところは、同条では、親権者の変更申立事件においては、子が15歳以上である時には、必ずその手続の中で、審判をする前に、未成年者の意見を聴かなければならない旨規定しているわけであるが、ただ、亡親が親権者であつたのを、他方の親に親権者を変更する場合には、客観的認定事実から、未成年者の陳述を聴くまでもなく、未成年者がそのことを望んでいることが明らかに推認され、生きている実親を親権者とすることが未成年者にとつて福祉上一番望ましいと認められる場合で、かつ未成年者の陳述を聴くことが、かえつて未成年者にとつて福祉を害するような特段の事情が存する場合には、未成年者の陳述は聴かないで審判することが許されるものと解するのが相当であるところ、家庭裁判所調査官の調査の結果及び申立人本人の審問の結果に前記認定事実を併せ考えると、未成年者は、現在高校生として、申立人夫婦のもとで幸せに生活しており、未成年者に未だ実母のことは何ら説明していないので、未成年者は、現在の父母を実父母と感じている様子が見え、現在、若し、未成年者に、実母のこと等話して、現在の継母のこと等話すことは、かえつて未成年者の多感な心情を傷つけることとなると認められ、申立人夫婦も、若し、未成年者に上記の事情を話すのなら、未成年者の福祉のため、あえて、取下げざるを得ないとまで考えていることが認められる。

以上認定のすべての事実を綜合すると、本件では、未成年者の陳述を聴くまでもなく、未成年者がそのことを望んでいることが明らかで、申立人を親権者とすることが、未成年者にとつて福祉上一番望ましいことで、かつ、未成年者の陳述を聴くことが、かえつて、未成年者にとつて福祉を害するような前記認定のとおりの特段の事情が認められ、かかる事情の認められる本件にあつては、未成年者の陳述を聴かないで審判をすることが許されるものといわねばならない。

よつて、本件申立ては、理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 弓削孟)

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